マリーナ開発で重要な行政手続き順序
― 行政機関との協議を、どのような順序で進めるべきなのか ―
マリーナ開発を進める際には、前回までに見てきたように、港湾法、海岸法、都市計画法、建築基準法、公有水面埋立法、環境関係法令など、さまざまな法制度が関係してきます。
しかし、実際のマリーナ開発では、
「どの許可が必要なのか」
を把握するだけでは十分ではありません。
むしろ重要なのは、
「どの行政機関と、どの段階で協議を始めるのか」
という問題です。
マリーナ開発では、一つの行政手続が終わってから次の手続に進むという単純な流れになるとは限りません。
港湾、海岸、都市計画、土地利用、環境、建築、道路、上下水道などについて、複数の行政機関・担当部署と並行して協議を進めなければならない場合があります。
そこで今回は、マリーナ開発における行政協議を、実務上どのような順序で進めていくべきなのかを考えてみます。
1.マリーナ開発では「許可申請」より前の協議が重要
行政手続というと、
「申請書を作成して、行政庁に提出する」
というイメージを持つ方も多いと思います。
しかし、マリーナのような大規模な開発事業では、正式な許可申請の前に、行政との協議を行うことが極めて重要になります。
なぜなら、計画そのものが、
〇 港湾計画と整合しているか
〇 都市計画上問題がないか
〇 土地利用に関する規制に抵触しないか
〇 海岸保全区域に該当するか
〇 水域の占用が可能なのか
〇 埋立てが必要なのか
〇 周辺の道路や上下水道をどうするのか
〇 環境への影響についてどのような調査が必要なのか
といった問題を抱えている可能性があるからです。
この段階で問題が見つかれば、設計そのものを変更する必要があります。
逆に言えば、行政との協議を早い段階から行うことで、後になって計画を大幅に変更するリスクを減らすことができます。
2.最初に行うべきことは「事業計画の整理」
行政との協議を始める前に、まず開発事業者側で計画を整理しておく必要があります。
最低限、次のような事項を整理します。
① どこで行うのか
〇 所在地
〇 土地の範囲
〇 海面・水域の範囲
〇 土地所有者
〇 水域の管理者
〇 周辺の土地利用
② 何をつくるのか
例えば、
〇 ボート・ヨットの係留施設
〇 スーパーヨット対応施設
〇 クラブハウス
〇 レストラン
〇 ホテル
〇 駐車場
〇 給油施設
〇 修理・整備施設
〇 商業施設
〇 公園・親水空間
などです。
③ どのような事業を行うのか
施設の形だけではなく、
「完成後に誰が、どのように利用するのか」
まで整理することが重要です。
例えば、
「単なる船舶係留施設なのか」
「マリーナを中心とした観光・宿泊事業なのか」
「スーパーヨットの寄港・滞在拠点なのか」
によって、関係する行政機関や必要となる手続が変わる可能性があります。
④ 海面をどのように利用するのか
マリーナ開発では、陸上部分だけでなく、水域の利用方法が重要になります。
〇 桟橋
〇 浮桟橋
〇 防波堤
〇 船舶係留施設
〇 航路
〇 水上施設
〇 埋立て
など、海面をどのように利用するのかを明確にします。
3.第一段階――まず「自治体全体」との協議を考える
計画の概要が整理できたら、次に考えるべきなのが、自治体との総合的な協議です。
ここで重要なのは、
いきなり個別の許可申請窓口に行かない
ということです。
マリーナ開発のように複数の部署が関係する事業では、まず自治体側に、
「この場所で、このような事業を計画している」
という全体像を説明し、
「どの部署との協議が必要なのか」
を確認することが重要になります。
特に大規模な土地利用を伴う場合には、土地利用関係の条例や事前協議制度が関係する可能性があります。
横須賀市においても、一定規模以上の土地利用について、個別の法令・条例の手続に入る前に、市との協議・申出が必要となる制度があります。
そのため、
土地利用の基本的な方向性を確認することが、個別許認可に先行する
という考え方が重要です。
4.第二段階――港湾・海岸関係の行政機関と協議する
マリーナ開発で特に重要になるのが、港湾・海岸関係の協議です。
ここでは、
〇 港湾区域に該当するのか
〇 港湾隣接地域に該当するのか
〇 海岸保全区域に該当するのか
〇 港湾計画との整合性はどうか
〇 水域を占用できるのか
〇 工作物を設置できるのか
〇 海岸に施設を設置できるのか
〇 埋立てが必要なのか
といった問題を確認します。
例えば、港湾区域内の水域や公共空地に工作物を設置する場合には、港湾法に基づく許可等が関係します。
また、海岸保全区域では、占用や工作物の設置等について海岸法上の許可が必要となる場合があります。
したがって、
「マリーナをつくることができるか」
という問題だけではなく、
「その場所で、どのような施設を、どのような構造で設置できるのか」
というところまで行政との協議を進める必要があります。
5.港湾計画との整合性を早い段階で確認する
マリーナ開発で見落としてはならないのが、港湾計画との関係です。
特に大規模なマリーナ開発やウォーターフロント開発では、
「その場所を将来どのような用途に利用することが想定されているのか」
を確認する必要があります。
港湾計画は、港湾の開発、利用、保全などについて長期的な方向性を定めるものです。
そのため、
個別の許可を取得できるかどうかだけを見るのではなく、港湾全体の計画との整合性を見る
ことが重要になります。
例えば、
「事業者としてはマリーナを整備したい」
と考えていても、
〇 港湾計画との整合性
〇 周辺施設との関係
〇 航路との関係
〇 港湾利用との関係
〇 将来の土地利用
などについて調整が必要になる可能性があります。
したがって、港湾管理者との協議は、正式な許可申請の直前ではなく、事業構想の初期段階から行うことが重要です。
6.第三段階――都市計画・土地利用関係を確認する
海側の協議と並行して、陸側についても確認します。
ここでは、
〇 区域区分
〇 用途地域
〇 建ぺい率
〇 容積率
〇 高度地区
〇 防火・準防火地域
〇 地区計画
〇 都市計画施設
〇 市街化調整区域
〇 開発許可
〇 土地利用関係条例
などを確認します。
マリーナの場合、
「海の施設だから海事関係だけ確認すればよい」
というわけではありません。
クラブハウス、ホテル、レストラン、駐車場、商業施設などを併設する場合には、陸上部分の土地利用規制が大きく関係してきます。
したがって、
海側の行政協議と陸側の行政協議を別々に考えるのではなく、一つの事業計画として同時に整理する
ことが重要です。
7.第四段階――環境・インフラ関係の協議を進める
事業規模が大きくなると、さらに環境やインフラ関係の確認が必要になります。
例えば、
〇 環境影響評価
〇 騒音・振動
〇 水質
〇 廃棄物
〇 景観
〇 緑化
〇 排水
〇 上下水道
〇 道路
〇 消防
〇 防災
などです。
特に大規模開発の場合には、環境影響評価制度が関係する可能性があります。
環境影響評価は、事業を実施する前に環境への影響を調査・予測・評価し、必要な環境保全措置を検討する制度です。
そのため、環境関係の協議も、
「許可申請の最後に確認するもの」
ではなく、
事業計画を具体化する初期段階から確認する事項
と考えるべきです。
8.第五段階――具体的な設計と個別協議へ進む
ここまでの協議によって、
「この場所で、この規模のマリーナを、このような方法で整備する」
という方向性が固まってきます。
そこで初めて、より具体的な設計を行政に示していきます。
例えば、
〇 配置図
〇 平面図
〇 断面図
〇 水域利用計画
〇 係留施設の構造
〇 建築物の規模
〇 駐車場計画
〇 排水計画
〇 道路との接続
〇 防災計画
などです。
この段階では、行政側からも具体的な修正・条件が示される可能性があります。
したがって、
設計 → 行政協議 → 設計修正 → 再協議
というやり取りを想定しておくことが重要です。
9.第六段階――最後に正式な許可・届出へ進む
行政との事前協議を経て、必要な条件が整理されたら、正式な申請・届出に進みます。
例えば、
〇 港湾法上の許可
〇 海岸法上の許可
〇 都市計画法上の開発許可
〇 建築確認
〇 公有水面埋立法上の手続
〇 その他の関係法令に基づく許認可・届出
などです。
ここで重要なのは、
「許可申請が行政協議のスタートではなく、行政協議の結果として許可申請に進む」
という考え方です。
もちろん、すべてのマリーナ開発が同じ順序になるわけではありません。
事業場所、規模、施設内容、港湾区域の指定状況、土地利用規制などによって、必要な協議や順序は変わります。
しかし、大きな流れとしては、
事業構想
↓
自治体との総合的な事前協議
↓
港湾・海岸関係の協議
↓
都市計画・土地利用関係の協議
↓
環境・インフラ関係の協議
↓
具体的設計・個別協議
↓
正式な許認可・届出
という考え方が基本になります。
10.浦賀のようなウォーターフロント開発では
「行政間の調整」が重要になる
マリーナ開発を考える際には、一つの行政機関だけを見ていてはいけません。
例えば浦賀のようなウォーターフロントでは、
港湾行政
と
都市計画・土地利用行政
をどのように連携させるかが重要になります。
さらに、
〇 土地所有者
〇 港湾管理者
〇 自治体
〇 事業者
〇 設計者
〇 周辺住民
〇 マリーナ利用者
〇 観光・地域振興関係者
など、多くの関係者が存在します。
そのため、行政協議は単なる「許可をもらうための手続」ではありません。
むしろ、
複数の制度と関係者をつなぎ、事業として成立する計画に調整していくプロセス
と考える必要があります。
11.行政協議では「誰と話すか」だけでなく
「何を持っていくか」が重要
行政との協議を円滑に進めるためには、相談する相手だけでなく、相談時にどのような資料を提示するのかも重要です。
最低限、
① 位置図
「どこで事業をするのか」
② 土地・水域の範囲
「どこまでが事業区域なのか」
③ 事業概要
「何をつくり、何をするのか」
④ 施設配置図
「どこに何を設置するのか」
⑤ 水域利用計画
「海面をどのように利用するのか」
⑥ 事業スケジュール
「いつまでに何を行うのか」
⑦ 事業主体
「誰が事業を行うのか」
「誰が事業を行うのか」
を整理しておくことが望ましいでしょう。
行政にとっても、計画の全体像が分からなければ、必要な手続を判断することが難しくなります。
12.行政協議を「許認可の一覧表」にしてはいけない
マリーナ開発の行政手続を考える際、
「必要な許認可を一覧表にする」
ことは重要です。
しかし、それだけでは不十分です。
本当に必要なのは、
「この許認可を取得するためには、その前に何を確認しなければならないのか」
という「前後関係」です。
例えば、
港湾法上の許可が必要
↓
その前に港湾区域を確認
↓
港湾計画との整合性を確認
↓
施設計画を作成
↓
港湾管理者と協議
↓
必要な技術資料を整える
↓
正式申請
というように、行政手続を「点」ではなく「線」で見る必要があります。
これがマリーナ開発における行政協議の重要なポイントです。
13.海事代理士・行政書士が関与できる部分
マリーナ開発では、建築士、土木・設計事業者、コンサルタントなど、多くの専門家が関係します。
その中で、行政書士・海事代理士が担うことができるのは、
行政手続と海事関係手続を横断して整理する役割
です。
例えば、
〇 関係行政機関の整理
〇 必要許認可の調査
〇 行政相談・事前協議の支援
〇 許認可スケジュールの整理
〇 申請・届出書類の作成
〇 港湾・海岸関係手続の確認
〇 船舶関係手続の整理
〇 事業者と行政との調整支援
〇 マリーナ運営開始後の行政手続
などです。
特にマリーナでは、
「土地・建築」
と
「海・船舶」
の両方を考える必要があります。
そのため、行政書士・海事代理士が関与することで、
陸上側の許認可と海上側の海事手続を一体として整理する
という役割を果たすことができます。
14.マリーナ開発は「許可を取る仕事」ではなく
「行政との協議を設計する仕事」
ここまで見てきたように、マリーナ開発では、単純に
「必要な許可を調べて申請する」
だけでは十分ではありません。
重要なのは、
いつ、どの行政機関に、どの資料を持って、何を確認するのか
という協議の設計です。
そして、その協議の結果を事業計画に反映させ、
事業計画
→ 行政協議
→ 設計
→ 再協議
→ 許認可
→ 工事
→ 供用開始
という流れを組み立てていく必要があります。
マリーナ開発の成否は、個別の許認可だけで決まるものではありません。
むしろ、
許認可が必要になる前の段階で、行政とどのような協議を行うか
が重要なのです。
まとめ
マリーナ開発における行政協議は、単なる許可申請の準備ではありません。
重要なのは、
① 事業計画を整理する
↓
② 自治体との総合的な事前協議を行う
↓
③ 港湾・海岸関係を確認する
↓
④ 都市計画・土地利用関係を確認する
↓
⑤ 環境・インフラ関係を確認する
↓
⑥ 具体的な設計について個別協議を行う
↓
⑦ 最終的な許認可・届出に進む
という流れを意識することです。
ただし、実際のマリーナ開発では、事業場所や施設の内容によって必要な手続が異なり、すべての案件が同じ順番になるわけではありません。
だからこそ、計画の初期段階で、
「この事業には、どの行政機関が関係し、どの協議を、いつ始めるべきなのか」
を整理することが重要になります。
海事代理士・行政書士は、こうした行政手続を単独の申請としてではなく、マリーナ事業全体の行政手続として整理することができます。
マリーナ開発を検討されている事業者の方にとって、行政との協議を早い段階から適切に設計することは、事業を円滑に進めるための重要な準備となります。
次回予告
次回は、さらに実務的な問題として、
「マリーナ開発において、行政との協議を行う際、どのような資料を準備すべきなのか」
について考えていきます。
行政との協議では、単に「マリーナをつくりたい」と説明するだけでは十分ではありません。
位置、土地、水域、施設、事業主体、事業スケジュールなど、計画を行政に理解してもらうための資料が必要になります。
次回は、マリーナ開発の行政協議で準備すべき資料と、行政に伝えるべきポイントについて整理します。